DISC事業

第5回コラム DISC活動を振り返って~さらなる進化~ (後編)

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構AMED
科学技術顧問 髙子 徹

前編(4回コラム)では、DISC事業の特徴として以下のポイントをお伝えしました。

  • 創薬ブースターのシーズ評価では、創薬としての実現性を重要視しています。
  • 創薬ブースターの採用テーマからDISCのテーマを選抜します。
  • DISCテーマは、企業ライブラリーを用いたハイスループットスクリーニング(以下、HTS)が適切と判断されたテーマです。

今回の後編では、DISC事業における、新規性の高い革新的な創薬シーズの提案推進への取り組みについてご紹介します。

DISCライブラリーの「質」の評価と拡充

DISCでは企業化合物が構造非開示で提供されるため、これまでライブラリーの全体的なプロファイルを表すことができず、その「質」の評価はDISC事業推進の大きな課題でした。そこで、ライブラリーの「質」について、慶応大学・薬学部 池田和由特任准教授に、構造情報非開示の条件でインフォマティクス手法により解析していただいたところ、DISCライブラリーは医薬品特性が高い化合物で構成されており、さらに重要な点として、会員企業間の化合物の重複が少なく、化合物構造の多様性に富んでいるライブラリーであることも明らかになりました(DISCライブラリー多様性解析結果1)。すなわち、この多様性は、DISCライブラリーがさまざまな生物活性に対応しうることや、活性や選択性、物性や安全性付与のために必要な合成展開が可能なケミカルスペースを有しているという良質な化合物ライブリーであるということにつながっています。

シーズ提案者であるアカデミアの先生が、このような良質な化合物ライブラリーをツールとして使うことができれば、アカデミアの基礎研究の進展にも有効と思われます。しかし、DISC発足時のライブラリー化合物はすべて会員企業の所有物であったため、企業がアカデミアシーズを導入しない限りアカデミアの先生はライブラリー化合物をツールとして使うことはできませんでした。この点はDISC事業の目線が企業寄りであるという意見にも繋がったと思います。そこでライブラリーのケミカルスペースも考慮して、新たに商用化合物3万化合物を購入しDISCライブラリーに組み入れました。購入化合物から得られたヒット化合物については、活性値だけでなく化学構造もアカデミアの先生と会員企業で共有し、会員企業だけでなくアカデミアの先生もツールとして使用することができる新たな仕組みとしました。

このようなライブラリーを組み込むことで、仮に創薬シーズが企業に導出されない場合にも、アカデミアの先生は購入化合物から得られたヒット化合物をツールとして研究に活用し、ご自身の研究をさらに発展させることが可能となりました。アカデミアの先生にとっても魅力のあるDISCの改善点であると思います。現在DISCライブラリーはこれら購入化合物に加え、会員企業から新たに提供された化合物も含め、全体で約30万化合物から構成されています。アカデミアからは、蛋白質/蛋白質相互作用を標的とする創薬シーズ提案が増加する傾向にあります。AMEDでは、これらの標的に対応するために分子量の分布が500以上で、合成展開が可能な中分子化合物からなるDISC中分子ライブラリーを整備する予定であり(図参照)、アカデミアから提案される様々な創薬シーズに対応した良質なライブラリーを準備してHTSテーマの実用化を目指していきます。

図 DISC事業の構成

出典:第16回創薬支援ネットワーク協議会資料2)を改変

DISCは先生方と共に進めていく、アカデミア発創薬です

AMEDは、「創薬研究の推進に資する貴重な民間リソースやARO(Academic Research Organization)機能等を結びつけてオールジャパンでの医薬品創出を推進する」という目的のために、創薬支援推進ユニットを整備して創薬支援ネットワークの機能を強化しました。DISCユニットはその中の一つとして2018年より活動を開始し、HTSの実施と成果の獲得のためにAMEDが必要と判断した種々の業務を担っています。

DISCユニットでは、AMEDからHTS候補テーマのシーズ情報がDISCユニットに開示されると、先生との研究ディスカッション(コンサルティング)が始まります。コンサルティングでは先生とHTS実施に必要な技術的な議論をするほか、ラボツアーも行ってHTSに使用している最新の測定機器なども見ていただき、HTSの現場を先生に実感していただく良い機会となっています。ヒット化合物の認定に際しては、化合物構造情報が開示されないという制限された条件下で、スクリーニング系の組み合わせからヒット化合物が持つべき活性プロフィルまでを先生と議論し、両者合意の下でヒット化合物を選択します。コンサルティングは先生方からの評価も非常に高く、DISCユニットならではの有効な活動となっています。DISCユニットはアカデミアを対象にDISCの広報活動にも力を入れています。ブースター事業/DISCが広くアカデミアの先生方に認知され、新規性の高い革新的な創薬シーズの提案につながっていくことを期待しています。

参考資料

  1. DISCライブラリー多様性解析結果、産学協働スクリーニングコンソーシアム(DISC)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構Webサイト(https://www.amed.go.jp/program/list/11/02/001_02-01.html
  2. 創薬支援ネットワーク関連の令和2年度概算要求資料、資料5、第16回創薬支援ネットワーク協議会

著者の略歴

髙子 徹

大手製薬会社の研究部門にて30年にわたり探索研究、研究マネジメントを担当

2013年6月  (独) 医薬基盤研究所創薬支援室 東日本統括部
2015年4月  (国研)日本医療研究開発機構 創薬戦略部 東日本統括部
2017年4月   同  創薬戦略部 創薬企画評価課
2018年4月   同  科学技術顧問

※(独):独立行政法人、(国研):国立研究開発法人

コラム

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