DISC事業

第4回コラム DISC活動を振り返って〜立ち上げから今日まで〜 (前編)

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
科学技術顧問 髙子 徹

DISCはアカデミアシーズと企業由来の化合物を結びつけて実用化を促進する仕組みとして2015年に立ち上げました。DISC事業を立ち上げて5年になりますが、今年度になってDISCで支援したテーマを企業につなぐことができました(私たちは導出と呼んでいます)。創薬シーズの枯渇が話題となり、最近では創薬研究も低分子化合物以外のモダリティーを重要視する傾向も見られます。DISCテーマがすぐに医薬品に結びつくわけではありませんが、HTSで見出した低分子化合物ヒットから企業での研究開発がスタートするということを間近で経験し、シーズの魅力とヒット化合物の組み合わせに加え、企業の研究開発方針がうまく噛み合えば、「低分子創薬からの医薬品開発も大いに可能性があり、DISCはやりがいのある事業だ」という感想を持ちました。DISCを立ち上げたチームメンバーの一人としてDISCテーマの導出を夢見つつ、DISC事業の活動を振り返り、DISCのさらなる進化を目指した取組について紹介します。

アカデミアの研究シーズ実用化を目指して

創薬支援ネットワークの中核事業である創薬ブースター(創薬支援ネットワークとブースター事業およびDISCについての詳細はMEDCHEM NEWS 1,2)、ファルマシア3)などに掲載されていますので参照してください)では、アカデミアのシーズ情報を収集し、標的検証から非臨床研究までの創薬シーズの中から創薬コーディネーターが評価・選抜した創薬シーズをプロジェクトとして支援します。創薬コーディネーターがプロジェクトマネージャーとしてプロジェクトの進捗を管理し、アカデミアの先生と二人三脚でプロジェクトを推進するという点が他のAMED事業と大きく異なる点です。創薬ブースターは「テーマの採用率が低い」、「採用されても時間管理がきつく研究の自由度が少ない」などの声を時々ききます。私たちのテーマ採用の視点は、あくまでも「実用化につながるか」ということであり、表に示した評価項目について創薬コーディネーターが評価し支援テーマを選定します。採用された支援テーマは創薬プロジェクトとして、リソース管理の面からもタイムラインとマイルストンなど厳しい進捗管理が必要であり、創薬コーディネーターは研究進捗とリスクも把握してプロジェクトを推進します。

表 支援テーマ決定のための評価項目4)


出典: 第16回創薬支援ネットワーク協議会資料

DISCは、アカデミアの先生の創薬標的に対するHTSを実施し、スクリーニング結果を会員企業にフィードバックする取り組みです。DISCテーマは創薬ブースターで採用したテーマの中からHTSの実施に適したテーマとして選ばれます。企業から提供された化合物の構造情報は開示されません。一方、標的情報、アカデミアの先生が実施された研究情報、スクリーニング系、ID付番(どこの企業が提供した化合物かがわからないようにブラインド化する)された化合物の活性値、評価基準を満たすヒット化合物情報(用量反応性など)などは、先生と会員企業で共有されるオープンな仕組みとなっており、HTS実施後にヒット化合物を持つ企業はそのシーズを導入して創薬研究を開始することができます。シーズ導入企業からはアカデミアにツール化合物と対価が提供されます。これまでにDISCから二つのテーマが実用化を目指した共同研究につながりました。これこそが私たちがDISCで目指していた最終ゴールであり、共同研究の成果が患者に一刻も早く届くことを願っています。

今回は、テーマ採用までのDISCの仕組みをお伝えしました。次回、後編として、新規性の高い革新的な創薬シーズの提案を目指したDISCの新たな取り組みについてご紹介します。

参考資料

  1. アカデミア発の革新的創薬実現のための創薬支援ネットワークの取り組み、MEDCHEM NEWS 25(3), 118-123 (2015)
  2. アカデミア創薬を牽引するAMED創薬ブースターとDISCについて、MEDCHEM NEWS、30(4)、162(2020)
  3. 企業化合物ライブラリー活用の新しい動き、ファルマシア 53(2), 139-144(2017)
  4. 創薬支援ネットワーク協議会これまでの取組、資料6、第16回創薬支援ネットワーク協議会

著者の略歴

髙子 徹

大手製薬会社の研究部門にて30年にわたり探索研究、研究マネジメントを担当

2013年6月  (独) 医薬基盤研究所創薬支援室 東日本統括部
2015年4月  (国研)日本医療研究開発機構 創薬戦略部 東日本統括部
2017年4月   同  創薬戦略部 創薬企画評価課
2018年4月   同  科学技術顧問

※(独):独立行政法人、(国研):国立研究開発法人

コラム

2022.07.27 アカデミア研究者がDISCを活用して実感した、化合物ライブラリーの質の高さ
2022.02.08 DISC会員企業がアカデミアに求めていること―― DISC会員企業5社との座談会
2021.02.24 DISC活動を振り返って~さらなる進化~ (後編)
2021.01.12 DISC活動を振り返って ~立ち上げから今日まで~ (前編)

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