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コラム

アカデミア発画期的シーズの臨床応用支援

毎年、多くの医薬品が新たに承認されています。医薬品の基となる発見や発明(シーズ)はどこから生まれるのでしょうか?抗生剤のペニシリンはアオカビから発見され、強心作用や抗不整脈作用のあるジギタリスは「狐の手袋」という植物から発見されています。大村智先生が2015年にノーベル賞を受賞されていますが、どのような功績だったかご記憶でしょうか?大村先生は、放線菌(微生物の1つ)から寄生虫に有効性のあるエバーメクチンという化合物を発見し、この物質は有効性と安全性を高めるように改良され、イベルメクチンが誕生しました。イベルメクチンは家畜の寄生虫駆除に用いられていましたが、アフリカや中南米で流行しているオンコセルカ症に対しても有効であることがわかり、多くの人を失明から救いました。このように化合物を発見し、改良することが医薬品開発の王道でした。
近年、基礎研究が急速に発達し、体の様々な機能、遺伝子異常など病気の発生の原因、正常細胞とがん細胞の違いなどが明らかとなり、また、遺伝子組換え技術や細胞培養などの技術開発も進みました。これらを基に、赤血球を増やすエリスロポイエチン、悪性リンパ腫細胞表面に存在するCD20という物質を標的としたリツキサンという抗体などの分子標的療法など多くの医薬品が開発されました。このような代表例として、本庶佑先生が2018年にノーベル賞を受賞されています。手術、放射線療法、抗がん剤に続く第四のがんに対する治療法としてがん免疫療法が注目され開発されてきました。それまで、がんに対する免疫能を高める治療法が開発されてきましたが、残念ながら明らかな有効性を示すに至るものはごく少数でした。本庶先生は京都大学での研究で、免疫に関連したPD-1という物質を発見し、これが免疫を押さえる働きを有していることを突き止めました。PD-1の作用を押さえると免疫能が向上します。PD-1の働きを抑えるためにPD-1に選択的に結合する抗体を作り出し医薬品となったのが、ニボルマブ(オプジーボ)です。今までの免疫療法と比較して効果は明らかで、多くのがんに対して承認されています。このように大学の研究での発見が医薬品に結びつく例は国内でも増加しており、海外では大学発の研究をもとにベンチャー企業が設立され、開発を進め、大手製薬企業が成功したベンチャー企業を買収することがビジネスモデルとなっています。
アカデミアは、今まで述べた化合物や抗体の開発にも関与していますが、アカデミア発の医薬品候補は、遺伝子治療や細胞療法など新たな形態の製品が多いことが特徴です。東京大学医科学研究所(医科研)発のシーズの例をいくつか挙げてみます。がんは難治性ですが、ウイルスに感染した後にがんが縮小したことが、極々希ですが報告されています。進歩した遺伝子組換え技術とウイルスの遺伝子研究を基に、多くのがん治療用ウイルスが開発され、米国では悪性黒色腫に対して承認されています。医科研では、口唇ヘルペス等を引き起こす単純ヘルペス1型に遺伝子組換えを複数行ったG47Δが開発されています(https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/glioma/research/index.html)。脳腫瘍の1つの膠芽腫では第二相試験まで行われ、企業からの承認申請が待たれているところです。遺伝子治療も盛んになっています。遺伝子を生体内に運ぶベクターや、導入する遺伝子の改良等が進んだからで、特に遺伝性疾患で開発が進められ、続々と承認薬が出現しています。医科研ではデュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子治療の開発が進められていて、治験まであと少しまで来ています。再生医療として注目されているiPS細胞は京都大学の山中伸弥先生よって開発され、やはりノーベル賞を受賞されています。再生医療で用いられる細胞は、iPS細胞だけではなく、様々な細胞が用いられています。医科研では、臍帯(赤ちゃんの臍の緒)に含まれている間葉系細胞に注目して開発が進められています。間葉系細胞は、炎症や過剰な免疫反応を抑制したり、傷害部位で修復を促したりと多彩な作用を有しています。造血幹細胞移植のあとで移植した細胞の免疫が患者を攻撃するGVHDという病気に対して治験が行われました。
このようにアカデミアでの開発が非常に盛んになっています。一方、基礎研究や治験などで用いる、遺伝子組換えウイルス、遺伝子治療用ベクター、細胞等をどのようにして入手するかというのは大きな問題となっています。シーズの開発から承認にいたるまで、製造方法の継続的な検討の必要があったり、人に投与できる品質の製品を大量に製造できる施設等必要であったりします。研究者が製造や品質の維持に関わる必要があります。医科研では、遺伝子組換えウイルスと遺伝子治療用ベクター製造のために、治療ベクター開発センターを設置しています。下に治療ベクター開発センターの見取り図を示します。製造のための調製室は2ユニットあり、治験で用いられたG47Δも製造されています。


ベクターユニット


遺伝子組換えウイルスの製造

非臨床試験用に必要な遺伝子治療用ベクターの製造に対応するために治療ベクター開発センターとは別に製造室も備えています。また、細胞製品の製造のために、東大医科研細胞リソースセンターが設置され、ここで治験用の臍帯由来間葉系細胞が製造されています。
治験製品の製造には、施設、専用の人員、手順書等の作成等が必要で、実施できるアカデミアは限られ、開発の大きな壁となっています。医科研にはこれらの製造設備だけではなく、バイオ専用のスーパーコンピュータも設置され、ゲノム情報を用いた医療開発も行うなど多くのリソースを有しています。イノベーティブ創薬支援ユニットは、医科研の全リソースを活用してアカデミア発の新しいシーズの支援を行っています。興味ある方は、是非、当ユニットもしくは日本医療研究開発機構(AMED)にご連絡をお願いいたします。

令和2年11月

東京大学医科学研究所
先端医療研究センター 先端医療開発推進分野 教授
附属病院TR・治験センター長

長村 文孝

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