コラム・インタビュー

Translational and Regulatory Sciences

TRSに掲載された国内向け研究論文(日本語論文)について

AMED感染症創薬産学官連絡会 | AMED Public and Private Partnerships for Infectious Diseases R&D

コラム

次世代遺伝子導入技術・人工染色体ベクターによる細胞治療研究と創薬研究

 生命の設計図とも言われる遺伝子を生命体の中で秩序立てて運ぶ、いわば「船(ベクター)」のような存在が染色体です。人間には46本の染色体上に2万個もの遺伝子が積み込まれています。我々は、この染色体という船を基礎研究から応用研究まで幅広い研究に利用しています。大きな船(染色体)から荷物(遺伝子)をおろし、空っぽの船にしたのが人工染色体と言えます(図1、参考文献1)。従来型のベクター(ウイルスベクターなど)は小型船なのに対して、人工染色体は豪華客船のような大型船であり、たくさんの遺伝子を運べる特徴を持っています。我々はこの豪華客船を作り出し、利用する技術開発を長年に渡り行ってきました。そして現在、この豪華客船を難病治療や、創薬研究に活用しており、国内外から注目を浴びています。

 これまで、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子・細胞治療への応用や、ヒト薬物代謝予測のためのヒト薬物代謝酵素遺伝子導入動物の開発、完全ヒト抗体産生動物の開発に取り組んできました。医薬品の治療効果・安全性を評価する、あるいは医薬品候補を取得するための細胞や動物を医薬品開発プラットフォームと呼ぶのですが、現在、鳥取大学発ベンチャー・Trans Chromosomics社より、人工染色体を基盤とした医薬品開発プラットフォームの販売を開始するに至っています。

 そして、鳥取大と鳥取県による共同提案が、平成28年度文部科学省の地域科学実証拠点整備事業において中四国で唯一採択され、米子医学部キャンパスの染色体工学研究センター内に「とっとり創薬実証センター」が新たに設置されました。これまで我々が培ってきた医薬品開発プラットフォームを活用して、学内外のアカデミアおよび製薬企業との共同研究により抗体医薬品をはじめとする革新的医薬品の創出を目指し、2018年7月から本格的に研究を始動しています。入居企業の1つであるTrans Chromosomics社は鳥取大学・医学部・生命科学科(研究者養成のための学科)の卒業生あるいは県外にいる鳥取県・島根県出身者(Uターン)の就職の受け皿となっており、地方で優秀な人材を育成し、地方で社会に還元する成果を生み出すという、地方創生サイクルを生み出す仕組みができ始めています。

 鳥取大学発の技術である人工染色体ベクターによる創薬プラットフォームを活かして、大学発ベンチャー企業および製薬企業とともに医薬品開発に取組むことで、「人類の健康に貢献する」成果を生み出し、さらに、事業化を加速させることで、地域人材の雇用を促進し、産官学連携による「とっとり発次世代医薬イノベーション」を創出することに貢献していきたいと考えています。


図1 人工染色体ベクターとは

参考文献:

  1. Uno N, Abe S, Oshimura M, Kazuki Y. Combinations of chromosome transfer and genome editing for the development of cell/animal models of human disease and humanized animal models. J Hum Genet. 2018 Feb;63(2):145-156.

令和元年12月

 鳥取大学大学院医学系研究科遺伝子機能工学部門・准教授
 染色体工学研究センター・部門長
 とっとり創薬実証センター・センター長
香月康宏

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