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コラム

創薬研究に向けた高次脳機能評価のためのインビトロ(in vitro)試験法開発

ヒトの中枢神経系における創薬では非臨床試験段階における医薬品の安全性を実験動物の行動観察により評価しており、認知機能への影響を予測する技術がまだ十分ではないのが現状です。これを解決するためには、記憶・学習を司るシナプス機能を評価できるインビトロ(in vitro)実験系の開発が求められています。シナプス機能の評価をインビトロ(in vitro)で行う為には培養神経細胞の使用が必要になりますが、神経細胞の培養法は熟練した技術を必要とするものが多く、再現性が低いことが問題の一つとなっています。将来的にはヒトiPS細胞由来神経細胞の培養細胞を利用したインビトロ(in vitro)実験系の確立が待たれますが、現状ではげっ歯類由来神経細胞で、安定した再現性のある培養神経細胞を用いた高次脳機能を評価するインビトロ(in vitro)試験法が開発されました。

Figure 1: Representative fluorescence image of
3 week cultured SKY Neurons; MAP2 (red);
drebrin (green)
Scale 50 µm.

私たちはまず、安定した培養が可能な神経細胞の開発に取り組み、胎生18日目のラット胎仔脳海馬より調製した分散神経細胞を凍結し、長期保存可能な品質変動の少ない凍結初代神経細胞を作製することに成功しました。SKY Neuron注1と名付けられたこの細胞の培養には、グリア細胞条件培地やグリア細胞とのサンドイッチ培養などは必要ありません。通常の初代培養細胞用培地(例えばNeurobasalにB-27やSM1などのサプリメントを添加したもの)で血清を入れずに容易に培養できます。また、解凍播種後3週間は培地交換の必要もないことが実証されています(図1)。同一ロットの細胞を無血清培地で簡単に培養することが出来ますので、再現性の向上が期待され、これまで、十数か所の施設で比較的ばらつきの少ない培養が可能であることを確認しています。さらに私たちは培養神経細胞を用いたインビトロ(in vitro)試験法のハイスループット化を実現するべく、SKY Neuronを96ウェルプレートに播種し、染色を行ったのち、全自動で画像取得・解析を行う方法の開発を行いました(図2、[1])。


Figure 2: High-content imaging analysis using SKY Neuron

認知機能をインビトロ(in vitro)で評価する試験法は、細胞死に着目したものやてんかん波の発生を指標とするものが多く見受けられますが、私たちはシナプス機能不全に着目した新たな試験法を開発しました。認知機能の最小単位とも言えるシナプス部位には数多くのタンパク質が局在していますが、私たちはアクチン結合タンパク質の一種であるドレブリンに着目しています。成熟した神経細胞のシナプス部位にはドレブリンが集積していますが[2]、シナプス機能不全が起こるとその集積が見られなくなるため、ドレブリンのクラスター密度をシナプス機能不全のバイオマーカーとすることが可能です。SKY Neuronを用いてドレブリンクラスター密度に着目したハイコンテント解析を行うことにより私たちはこれまで、グルタミン酸受容体活性やアクチン重合阻害剤の効果[1]、およびフェンサイクリジン類似体のNMDA型グルタミン酸受容体阻害効果の検証[3]を報告しています。

現在SKY Neuronはその他のシナプス局在タンパク質解析やシナプス以外の神経細胞構造解析にも使用が広がっており、また、ドレブリンクラスター密度に着目したハイコンテント解析法はシナプス機能に作用する薬物評価などへと応用が広がりつつあります。医薬品による認知機能への影響をインビトロ(in vitro)で明らかにすることは、医薬品の安全性評価を精度高く行うことにつながり、創薬研究に応用できる評価法として益々の開発が求められているのではないかと感じています。

注1:ここで紹介させて頂きましたSKY Neuronは現在、群馬大学の成果有体物として有償譲渡が可能です。また、近く市販される予定です。詳しい情報を知りたい方は小金澤までご連絡ください。

【参考文献】

  1. Hanamura, K., et al., High-content imaging analysis for detecting the loss of drebrin clusters along dendrites in cultured hippocampal neurons. J Pharmacol Toxicol Methods, 2018. 99: p. 106607.
  2. Koganezawa, N., et al., The role of drebrin in dendritic spines. Mol Cell Neurosci, 2017. 84: p. 85-92.
  3. Mitsuoka, T., et al., Assessment of NMDA receptor inhibition of phencyclidine analogues using a high-throughput drebrin immunocytochemical assay. J Pharmacol Toxicol Methods, 2018. 99: p. 106583.

令和2年3月

群馬大学大学院医学系研究科 神経薬理学
小金澤紀子・白尾智明

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