コラム・インタビュー

Translational and Regulatory Sciences

コラム

ミニチュア化HTSを架け橋としたDISC事業への参画

ミニチュア化の恩恵

遡ること6年前の2013年、筆者は第一三共RDノバーレ株式会社という会社のハイスループットスクリーニング(以下、HTS)を生業とするグループの長に着任しました。その時はまだ、そこがアッセイのミニチュア化の技を磨くことにしのぎを削る“虎の穴“とは知らずに。しかし、そのときの筆者の第一印象は、「液量を少なくして、実験を実施しているだけじゃないか。職人の趣味の世界かな。」というもので、正直なところ、あまりピンときてはいませんでした。

筆者が入社した1990年代初頭のHTSといえば、96穴プレートを利用したものが主で、その反応液量は100 μLというのが標準でした。当時はHTSに必要な酵素などの精製タンパク質を確保するのが本当に大変で、工場の培養施設を借りたりして、総計で数百リットルにおよぶ組換大腸菌の大量培養と大量精製という難敵を相手に格闘する日々を過ごしていました。

着任してしばらくして、どれくらいの量が節約できているのか、何かのきっかけでふと計算してみることにしました。すると、現在の自社のHTS標準は1536穴プレートあるいは3456穴プレートが主体であり、その液量は1〜2 μLである、と聞かされたのです。ざっと計算するだけでもタンパク質の準備に必要な培養液量は1/100、すなわち、たかだか数リットルで済んでしまうのです。まさに隔世の感でした。高額試薬である、少量しか入手できない、などの理由でこれまでHTS実施を断念せざるを得なかったテーマも、楽々と実施できてしまうことになるのです。

つまり、ミニチュア化という“量的な追求”をしていったことで、HTS実施が不可能なものを可能なものにするという、“質的な変化”を生み出したということになります。

「これって凄いことなのかも知れない」
「小さいって素晴らしい」

と当初の印象は一変しました。そして、少々大げさですが、これは広く世の中のために使うべきだという決意が生まれました。

創薬コンシェルジュとしての精神

コンシェルジュ(concierge)は、もともと「集合住宅(アパルトマン)の管理人」という意味のフランス語の単語です。中世ヨーロッパのコンシェルジュは、教会の中にあってホスピタリティー(心のこもった“おもてなし”、歓待)をもって巡礼者を迎え、旅行中のいろいろな困りごとを解決して、次の目的地に正しく導く役割を担ったそうです。最近では、ホテルやデパートなどで、お客様からの要望に対応する人の職名としてよく耳にするようになりましたね。

さて、DISC事業を含め、私達は過去6年でのべ数百件のHTSテーマのコンサルティングを実施してきました。その時に欠かせなかったのが、コンシェルジュの精神です。創薬や初期探索の現場で、コンシェルジュとしてまずやるべきことは何でしょうか?それは、ゴールイメージの共有であると考えます。場合によっては、相談をもちかけている当人ですら、ゴールイメージが明確でないことも想定して、併走して対話を続けます。そして、さまざまなコンサルティングの経験から苦心して会得した洞察力や実行力で、創薬を強力に支援したいと思っています。「あなたが求めているものは、これではないですか?」「あなたが求めているものは、このやり方できっと取れますよ」とそっと持ちかけるのです。

一方、コンシェルジュには努力が欠かせません。常に最新のテクノロジーにアップデートして、それを有効に活用することで、独自の世界観をもって新たな創薬の地平を開拓するのです。この現代において、ネット上のショッピングモールで、売っているものを探すのは比較的簡単です。しかし、売っていないもの、見たこともないものを探すのは非常に難しいのです。しかし、売っていないからニーズ、価値がないとは限りませんので、売っているものを揃えるだけでは決して終わりません。最新のテクノロジーを創薬にタイムリーに活用するには、実践で腕を磨いて経験値を上げ、使い方や組み合わせもとことん工夫する必要があるのです。また、各人のセンスや知性を磨き、想像力を鍛え、専門分野に対して造詣を深め、独自の世界観をもって、驚嘆や感動を与えるようなソリューションを準備したいと考えています。

さて、コンシェルジュにとって一番悩ましいのは、次の時代の真のニーズを知り、周到な準備をしておくことかもしれません。そういった意味でも、AMEDのDISC事業の中で、第一線で活躍されている大学・アカデミアの先生方との“めぐり合い”(chance meeting)ともいうべきコンサルティングの機会を多く頂いていることは、コンシェルジュにとってニーズのイメージを構築する上で、非常に貴重で有難いことなのです。今後のサイエンスやテクノロジーの方向性を垣間見ることができる、まさに私達にとってfortunate chance meetingといえるのです。そして、私達の提案するソリューションが、先生方の期待や予想を良い意味で上回るのが理想形であると考えています。

「そんなことがこんなに早くできるとは思いもしなかった」
「あなた達と一緒でなければ、成し遂げられなかった」

という言葉を投げかけられることは、コンシェルジュにとって無上の喜びなのです。

令和2年1月

第一三共RDノバーレ株式会社
生物評価研究部長

若林謙爾

 

ページ先頭へ